0CF1FF0B-6233-4A0E-8589-DC9BE16DE569
地元の経済誌である「浜松情報」の第523号(平成28年1月1日)に「2016新春インタビュー」として取材記事を掲載していただきました。




浜名湖の活性化に繋がる「舟運構想」を中心に、正月号らしく、個人的な見解として述べていますので、興味ある方はお読み下さい(写真は付加しています)。


■■ 浜名湖周辺の魅力を再興。浜松の観光は今年が勝負 ■■


先日、新しい遊覧船を導入されましたね。 
そうですね。自転車20台以上を運べる水上タクシーとも言える「ウクレレ」です。浜名湖サービスエリアから出航する社会実験も行いました。

これはかなり大きな船なのでしょうか? 
そんなに大きくはありません。19トン以下の小型船舶で82名乗りです。水の上から浜名湖の美しさを体感しながら、サイクリングなどを楽しむ「アクティブクルーズ」の定着を目的に、浜名湖に来て頂きたいという願いを込めて導入しました。今、サイクリストが世界的に増えていますし、ノルディックウォークやランニングなどをされる方も引き続き多いです。元々浜名湖はマリンスポーツが盛んですので、そういったアウトドア派の方々にも喜んで頂けるのではないでしょうか。
これで所有する船は何隻となりますか? 
3隻目ですね。250名乗り、150名乗りに続いて、それぞれの特色を生かした船舶が揃いました。

カラーリングも鮮やかな黄色ですね。
ありがとうございます。アメリカのボストンやシカゴなどで使われている「水上タクシー」をイメージしました。願わくば「観光タクシー」として気軽に乗って欲しいと思います。日本でも、水上交通は少しずつ根付いてきましたね。この船舶は、いまは整備中ですので、春以降から夏に向けて稼働させる計画で準備を進めています。


◆浜名湖は観光資源をあまり有効に使われていないという声もありますが。 
日本国内で「観光圏」が13地域認定されていますが、浜松市と湖西市にまたがっている「浜名湖観光圏」の推進事業を官・民・産・学の4つのセクターをフル活用して、経済圏として観光的側面から整備しようという動きが始まりました。「地方創生」が叫ばれる中、その鍵を握るのが観光事業だと思います。
インバウンド客の増加が大きな話題となっていますが、浜松への影響はどうなのでしょう?
統計的には全国でも数本の指に入るくらいに訪日外国人の宿泊者数は多いそうです。しかし、東京と大阪の間にあるという地の利にあやかった宿泊利用のみが目立ち、食事は朝食のみで、夜着、朝発という動きが多いのが現実ですね。


いわゆる東京、大阪間を結ぶ「ゴールデンルート」の中間であるのが浜松ですね。
私共のホテルでも影響はありましたが、今、やろうとしているのは、既に日本のメジャーな観光地を回った訪日外国人の旅行者が「2回目、3回目にどういう所に何しに行くのか」に注目する事で、これに対して「浜名湖が観光圏としてどう対応していくか」がチャンスでもあり大きな課題でもあります。こういった流れは、地方創生を含めた観光を切り口とした経済の活性化にも繋がると思います。


浜名湖観光圏は、13カ所ある観光圏の中でも期待は大きいのでしょうか?
海の湖」というテーマを掲げていますが、浜名湖は海水と淡水が混ざる汽水湖という珍しい性質を持った観光資源として期待できます。同じ浜名湖でも、観光圏を軸に浜松側と湖西側で統一感を持って活動が出来ることも、過去とは異なるアプローチで実務的なメリットもあります。また、奥浜名湖地域は来年の NHK大河ドラマ「おんな城主直虎」にちなんだ観光地として、今年以降ブレイクする可能性を持っていると思います。


目標とするものはあるのでしょうか? 
持続可能な観光地域づくりを目指すことです。いろいろな実験事業を進めていく中で、成果があったものを自分達の力で継続してやっていけるようなものにしていこう、というのが基本的なスタンスです。

期待できる計画ですね。 
浜松には、他地域と比べると羨ましがられる程の観光資源が揃っているのです。これを浜松の人は当たり前と思うことが多く、どう生かすかというアイデアに乏しい部分があると思います。例えば、大分県の湯布院では「我々には何もないから、何かを作らなければ」という気概で温泉を生かした街づくりや、農業を生かして料理人が「食」を活性化させた経緯もあるそうです。ないものねだりより、あるものさがし。まさに、現在ある観光資源をどう結びつけて訴求できる体制づくりが浜名湖観光圏の使命だと思います。
そのような遊覧船事業は非常に地域の観光に貢献していますね。 
浜名湖の観光地としてのウィークポイントは、行きづらさだと思います。電車でJR浜松駅に降り立って浜名湖にバスやタクシーで向かおうとすると、時間やお金が掛かってしまいます。これをなんとかするために「アクセスイノベーション」を起こしたいと、2009年10月に浜名湖遊覧船を引き継ぐ前からずっと考えています。その時の取材で書かれた「水陸両用バスの夢」も公私で描いている構想のひとつでもあります。

アクセスイノベーションに関して詳しく教えて下さい。
近年、「姫路」や「金沢」や「熱海」など、JRの駅に直結した観光地が栄えていますが、少子高齢化社会の中で、高齢者は「交通弱者」であり、今は車に乗れなくても旅行に行きたいという層に向けて、東名の高速バスの利用が注目されています。その点、浜名湖サービスエリア内にはバス停がありますので、東京駅や名古屋駅から直接、比較的安く浜名湖に来られるというメリットがあり、高齢者だけでなく車を持たない若者も増える中、新たな需要を開拓し、浜名湖サービスエリアから水上交通で舘山寺や周辺の観光地に人を運ぼうというのがアクセスイノベーションです。サービスエリアから船で5分程の所要時間で舘山寺温泉に到着できます。

元々、浜名湖では舟運交通が活用されてきたのでしょうか? 
明治時代から「浜名湖巡航船」という浜名湖遊覧船の前身である会社がありました。三ヶ日や気賀など奥浜名湖地域では重要な交通インフラとして利用されていたのです。その後、観光事業としての遊覧船へ移行していったという歴史があります。
浜名湖巡航船の航路

ルーツとしては歴史が深いのですね。 
そうですね。当社としては「原点回帰」というイメージで考えています。先日、浜名湖サービスエリアから湖西市の「海湖館」まで船で向かったのですが、興味深かったのが、約45分の航路中にJRの新幹線や在来線の橋、道路の橋を含め、計4つの橋をくぐった事です。更に、 現在運航している舘山寺までのルートで体験できる東名高速道路の橋と猪鼻湖の橋を合わせると全部で7つか8つの橋をくぐる事となり、これは全国的にも世界的に非常に珍しいと注目しています。

今年度中には、東名高速道路のスマートインターチェンジも開通しますね。 
これも非常に大きな意味があり、ボリューム層である車やバスでの観光客が舘山寺の温泉地に直接来られるようなアクセス向上が期待でき、平成28年度末(平成29年度3月)に開通の予定ですので、とても楽しみです。これからは、新しい施設を作るというよりも、現在あるものを生かす時代ですので、それをどう積み上げていくかを課題や目標にします。私の考えとしては、天竜浜名湖鉄道の駅と繋げると「周遊パス」などの活用度が高まると信じています。

繋げるとすれば、どの辺りになりますか? 
まず「三ヶ日駅」が良いのではないかと思います。そして直虎ブームや定期運航の実現度を見込むと「気賀駅」です。天竜浜名湖鉄道と結節点として繋げれば「アクセスイノベーション」が完成形に近づき、陸と湖を繋ぐターミナル的地点となり得るのではないでしょうか?

これが整えば、旅の楽しさが広がりますね。 
更に、浜松市が「ハマイチ」と呼ばれる、サイクリングなどの浜名湖の周遊型体験プログラムの開発にも力を入れています。浜名湖サイクルツーリズム推進会議と浜名湖遊覧船が協力して双方を利用する「 ハーフハマイチ」という社会実験も行い、それぞれの特徴を生かした協力体制も築かれ始めています。

今後、更に水上交通は注目されますね。 
そうですね。東京オリンピックでも選手の移動手段として水上交通が注目されていまして、規制緩和の方向へと向かっているようです。

2015年を振り返ると、かなり活発に動かれた一年でしたね。 
水上交通を学ぶためにハワイやニューヨークなどの海外を訪れ、安全対策などを自分の目で確かめましたし、国内の観光地も訪れました。まず自分自身が観光客になって体験することで、なぜこの観光地にはお客様が多いのか、自分が入ってみたくなる店とはどんな店なのか、遊びに行くというよりも、商売に生かす素材集めに行く感覚でした。浜名湖の切り口である「海の湖」のイメージを、もう一度しっかりと固めるための研鑽ですね。

社長が目指していく経営者像とは? 
イメージとしては「社会起業家」になります。これは「社会変革(英: Social change)の担い手として、社会の課題を事業により解決する人のことを指す言葉ですが、まさに遊覧船事業が当てはまってくると思います。決して一過性ではなく、社会に貢献して、収益性を目指していく事を続けていきたいですね。

社長が常々考えて進めてきた思いや事業が形になってきましたね。 
そうですね。何より浜松市民が誇りに思う観光地を形成していくことと、観光業に携わる人達が、この仕事をやってきて良かったと思ってもらえるようなコンテンツを育てること、そして全国的にも国際的にも評価されなければ自己満足に終わってしまうと自戒しています。

具体的に、どの様な観光地を目指していきますか? 
滞在型の観光コンテンツをプログラムとして開発しなければなりませんし、「住んでよし、訪れてよし」の地域づくりが観光の大きなテーマになっていて「こういう街に住んでみたい」と思わせることが観光振興にとって大切なことだと思います。

切り口としては、そういう発想が定住人口の増加にも繋がってきますよね。 
定住人口はもちろん、交流人口をどう増やすかが大きな課題ですね。観光客の消費が地域に与える影響は大きく、「観光」を一つの産業として、大きな切り口にしていかなければならないと思います。人口が増えることで、企業は雇用も増やすことができ、本当の意味での地域活性化へと繋がっていくのではないでしょうか。

今年はどんな一年になると思いますか? 
井伊直虎」の前年という事で、それを軸に色々動きがある一年になるのではないでしょうか。行政と民間が協力して、浜松の観光従業者が一体となり、お客様を無会えられるようにしなければいけません。さらに、大河ドラマ終了後も継続的に観光地として存在し続けるような努力をしていく覚悟です。よろしくお願いします。

本日はありがとうございました。2016年の更なるご活躍を期待しています。 


小野晃司(おのこうじ)
1966年浜松市出身。浜松北高、筑波大学を卒業後、1994年、米国ホフストラ大学大学院にて経営学修士課程(MBA)を修了。2004年にサゴーエンタプライズ(株)の代表取締役社長に就任、2009年に浜名湖遊覧船(株)を完全子会社化して現在にいたる。


繰り返しになりますが、2017年のNHK大河ドラマは井伊直虎をテーマで決定したことで、浜名湖観光に大きなチャンスが巡ってきました。 


記事にも書かれている通り、今後も「社会起業家」として地域の発展のために張り切って活動しますので、応援よろしくお願いします!