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JTB協定旅館ホテル連盟が発行している「JTB旅ホ連ニュース」に全国の観光地で取り組んでいる活動を報告するシリーズ「地域の魅力を創る!」があります。

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その2012年10月号(No.636)に、浜名湖かんざんじ温泉観光協会が取り組んでいる着地型観光商品「遠州道中膝栗毛」が取材を受け、記事として掲載されましたので、紹介させていただきます。

NPO法人浜名湖舘山寺温泉観光街づくり協議会と浜名湖かんざんじ温泉観光協会: 半日バスツアー「遠州道中膝栗毛」で浜松の「宝」を魅せる- JTB旅ホ連ニュース 2012.10 / No.636/ pp.12-13
  • 舘山寺温泉では今、宿泊客にもっと地域を楽しんでもらおうと始めたバスで巡る半日観光「遠州道中膝栗毛」が軌道に乗り始めている。この土地で旅館を営み、長らくまちづくりの推進役を担ってきた、小野晃司氏(舘山寺サゴーロイヤルホテル代表取締役社長、旅ホ連本部・旅館経営研究委員会委員)と浜名湖かんざんじ温泉観光協会(以下観光協会)事務局長の斉藤隆夫氏に話を聞いた。
  • 旅行ニーズの変化と団体客の減少
     舘山寺温泉は、浜松市内からバスで50分、浜名湖畔に広がる風光明媚な温泉地だ。「浜松市はもともと織機や楽器製造から産業が発展した町です。織機はその後自動車やバイクに発展して、トヨタ、スズキ、ホンダなど世界に名だたるメーカーの工場が集まる一大産業都市になりました。舘山寺温泉は、そこで働く人たちの職場旅行や、工場見学に国内外から集まる人々の憩いの場として発展してきました」と小野さん。だが長らく団体旅行で賑わってきた温泉地も、宿泊客の減少を避けられなかった。そこで、7年ほど前から地元の観光協会・商工会と自治会は、地域住民・観光産業・観光客それぞれが恩恵を享受できるまちづくりを目指し、さまざまな取り組みを開始。小野さんは中心的存在として積極的に関わってきた。浜松市内でビジネスホテルも営む小野さんは言う。「ビジネス需要とは異なり、観光地は地域の魅力によって世界から『人を呼ぶこと』ができるんです」。
     人を呼び、留まっていただくにはどうすればよいか?小野さんたちは、観光業だけでなく、そこに住む人々を巻き込んで活動をすすめた。「住みよい町は観光に来る人たちにも良い印象を持ってもらえ、きっと再訪にもつながる。また、観光客が旅館から町のなかに出ていくこと=居住者からみれば生活空間に外の人たちが入り込んでくることですから、住民の理解を得ることも必要だと考えたのです」。
     一方04年ごろから、小野さんを含め地元の若手経営者たちが集まった「浜名湖えんため(代表・ホテル鞠水亭・稲葉大輔氏)」という会でも、観光振興のための取り組みを始めていた。その具体的なコンテンツが半日バスツアー「遠州道中膝栗毛」(以下膝栗毛ツアー)だ。現在は、前述の小野さんたちのまちづくり活動と「えんため」の活動を発展させ、12年に新たに発足させた「NPO法人浜名湖舘山寺温泉観光街づくり協議会」の一事業として、観光協会と連携をとりながら運営している。「団体ではなく、個人でいらっしゃるお客様に対応できる、インフラを作りたいと思いました。『見るところがなくて飽きた』と言われないように、ツアーの中身について議論を重ねました」と小野さん。一番の目的はもちろん、お客様のさらなるリピート化と連泊への動機付けだが、「地域の農林水産業や商工業と連携し、地域外のお客様に体験いただくことで地域活性化を図ることも目的にしています」。
  • ツアーの裏舞台
     膝栗毛ツアーの中身をご紹介しよう。ツアーは毎日2名以上で催行、料金は一人1000円。取材日のコースは、農園でのブルーベリー摘み体験と、うなぎパイファクトリーの見学。農園では、美しく実った種類の異なるブルーベリーを木からもいで味わうことができ、さらに小さなパックに自分で詰めるおみやげつき。個人で入園すれば30分1000円、と記載されているのを見ても、いかにこのツアーがお得かがわかる。同乗した高齢のご婦人は、パックのふたが閉まらないほどたくさん摘んで大満足の様子だ。バスで移動し、豆菓子の卸問屋で試食とお買い物を楽しんだあとは、ご当地名物「うなぎパイ」の工場、「うなぎパイファクトリー」へ。大人たちも真剣にうなぎパイの焼きあがる様子を見つめているのが微笑ましい。3時間のバスツアーはあっという間、最後にバスに同乗する案内人からご当地お薦めの昼食個所の説明があって、名残惜しげに解散となる。ちなみに取材日の案内役は「ホテル鞠水亭」の若女将、稲葉知里さん。「今日は当館のお客様はツアーに参加されていないんです」と苦笑しながらも、本職の添乗員さながら行先の説明やご案内をこなしてお客様を飽きさせない。
     バスツアーの案内役は、舘山寺温泉の宿泊施設が持ち回りで担当する。「規模の大きな施設も小さな施設も同様に人を出して、このシステムを支えています。このような取り組みは1軒ではできません。舘山寺温泉のどこに泊まっても、ツアーに参加いただけるというのは、小規模旅館にとっても大きなメリットですから、積極的に参加してくれていますよ。」(小野さん)。温泉街の旅館全体が支える仕組みだからこそ、継続でき、リピート客も増えている。昨年のツアー催行日数は344日。天候不順を除き、申込がなくて催行中止となった日は18日しかない。
     「『仕掛け』と『仕組み』がうまく回り続けることが重要」と小野さんは言う。仕掛けは良くても、仕組みが回り続けなければ、地域に根付いた活動にはならない。そのためには手を広げすぎず、地道に続けることが必要だ。膝栗毛ツアーはどんなに人の集まる時期でもバス1台分しか予約をとらない、という身軽さだが、年間6000名ほどのお客様に楽しんでいただいている。まさに、小さく持続する仕組み、なのだ。
  • 企画は本格的に
     ツアーを始めた当初、契約できる見学体験個所を探して歩いたという小野さん。気候温暖で農業も盛んな浜松ならではの体験をしていただきたい、と、前述のブルーベリーや浜松市が日本一の生産高を誇るガーベラ、三ヶ日みかんなどを生産する農園と契約した。「できるだけ『旬』のものを、そして自分自身が『あ、いいな』と思ったものを行程に組み入れたいと思っています。一般のお客様を入れたことのない農園などにも、お願いして解放してもらったりしました」。
     苦労もあった。「半年かけて育ててきた作物を、ツアー参加者が靴で畑を踏み荒らして、ダメにしてしまうのではないかと危惧されて契約できないケースがありました。今は配慮すべきことを予め考え、リスクを排除しています」。一方、消費者と直接話をしたことのない生産者が、お客様とのコミュニケーションのなかで新たな発見や「おいしい」と言ってもらえる喜びを知ることは大きなメリットだ。「消費者との交流がよい機会となり、自身の仕事への誇りも生まれます」と小野さんは言います。「浜松でこんなものも作っている、ということを県内外のお客様に示すことで、改めて地元を見直すきっかけになり、故郷への愛情が生まれるんですよね。それが、地域の活性化につながります」。
     現在、コースづくりを担当しているのは観光協会の斉藤さん。1年間のコースラインナップは多彩だが、長らく旅行会社に勤務していた経験を持つ斉藤さんは、巧みに組み合わせを考えていく。「費用のことがあるので、有料個所は1か所しか入れることができませんが(笑)」と言いつつ、例えば、春は浜松城の花見(桜)と浜松の誇る地域ブランド、和紙タオルの工場見学、夏は菖蒲園とお茶屋さん、秋はうなぎ問屋見学とガーベラ摘み…といった具合に、浜松の見どころが盛り込まれる。「半日なので遠くには行けませんが、探せばけっこうおもしろいところがあるんですよ。午後は観光協会で貸出をするレンタサイクルで回っていただく、なんていうのもおすすめです」。地元の人でもなかなか行けない旬の場所を案内したい、と言う斉藤さん。「例えば花の時期はどんどん変わるので、状況を見ながらコース設定をします。ガイドがそのときに一番良いところをご案内できるよう、情報確認は欠かせません」。確実なものだけでなく、わくわくするような流動要素を入れられるところが、旅行会社の企画とは異なるおもしろさだ。これから、例えば全国でも有数の漁獲高を誇る遠州灘のとらふぐやしらすの水揚げ風景を見せたい。揚がらない心配もあるが、見ることができたらそれは通常の観光では見られない特別の景色、そんな面白さを追いかけたいと斉藤さんは言う。
  • 「地域の力」による人財教育
     以前は、各旅館ホテルのスタッフも、「土地の魅力」には無頓着で、「舘山寺」の説明もできない状況だったという。しかし、膝栗毛ツアーをご案内するためには、まずスタッフ自身が近隣のことを知っていなければならない。旅館ホテルのコンシェルジュ機能が必要となったのだ。「ツアーには、各旅館ホテルのスタッフに添乗員として案内してもらいます。マニュアルを見ながらではありますが、そんな体験を通して、スタッフ自身に地域の魅力を体得してもらいます」。各施設の社員一人ひとりが、地元を深く知ることでお客様との会話が広がり、地域としてのおもてなし力がアップしたと言う。小野さんの職場でも、お客様にご案内する場所について社員が話し合う機会が増えた。また、ツアーに参加される、自館以外のお客様へのおもてなしは新しい経験であり、人財教育の観点からも有効だ。
     社員には必ず観光地研修も受けさせる、という小野さん。「ホテルで観光地をご案内するにしても、膝栗毛のガイドを担当するにしても、お客様にとってはそのとき担当したスタッフが全てです。お客様にとってそのサービスの一瞬が楽しいものであるようにしたいですよね」。
     「今は、のんびり来てのんびり帰ってもらう時代。『そこに行って何ができるのか』と聞かれて答えられる自分たちになりたいのです」と小野さんは言う。昭和33年開湯の比較的新しい温泉地には湯治場ニーズはないが、新たな「そこに来る理由」を探せばよい。宿泊施設ありきではなく、土地の持つソフトをつなぎ合わせ、「地域」としてお客様をおもてなししていく。世界遺産はないけれど、目を向ければ「宝」がいっぱい。自然の恵みを生かし、ゆっくり宿泊地を楽しんでいただくための温泉地の挑戦は、さらにパワーアップしていく。

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以上です。参考までに取材時の写真を掲載させていただきました。
またこの「遠州道中膝栗毛」は浜名湖かんざんじ温泉にお泊りのお客様限定のツアーとなりますので、ご了承ください。

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